VBAマスターの朝は早い
朝5時
まだ日が昇る前、VBAマスターはキッチンにいた。
こうして毎日朝ご飯とお弁当をつくるのが日課だと言う。
Q. おはようございます。朝、早いですね?
「ええ、この時間からだと調度いいんですよね。毎日同じメニューなので作る時間も食べる時間も変わらないんです。」
これも効率化の一つだとVBAマスターは付け足した。
五年間毎日同じメニューだと言うのだから驚きだ。
真剣な目付きでレンジのチンを待つ姿勢にプロフェッショナルの気概を感じた。
朝ご飯を食べ終わると真っ先にパソコンを起動する。
ニコニコ動画を開き毎時ランキングをスクロールする。
「この時間帯はすいてるんですよ。…!」
どうやら気になる動画を見つけたようだ。目付きが鋭くなる。
限られた時間の中でお気に入りの動画を見つけるのは非常に難しいとVBAマスターは語る。
「今日はいい日になりそうだ」
6時半
地下鉄に揺られながらVBAマスターは分厚い本を開く。
Q. それは?
「資格の本です。日々勉強ですよ。」
そういって開いた本は『高度専門 システム戦略』
Q. 難しそうですね?
「意味は分からなくてもいいんです。業務に役に立つことはありませんからね。ただ、周りの乗客に『私、いかにも難しそうな本を勉強してます』っていうか、ちょっとした優越感に浸れればそれでいいんです。」
常に周りを意識する。VBAマスターに妥協はない。
5分後、本を開いたままおもむろにまぶたを閉じていた。
結局駅に着くまでVBAマスターが目を開けることはなかった。
8時
出社して会社のパソコンを起動するとすぐにWebブラウザを立ち上げる。
「始業まではまだ時間がありますからね。こうしていつも早めに来てネットで情報収集してるんですよ。」
Q. どんなサイトを見ているんですか?
「主にIT関連のニュースサイトがメインですね。特にこの業界は情報の流れが速いですからね。常にチェックしていないとすぐに置いてかれちゃいますよ。」
そう言いながらも常にモニターから目を離すことはない。
食い入る様にモニターを眺めるその姿は、他者が近づくことを許されないように見えた。
30分後、徐々に社員が入社してくる様子を察知すると、そっと「やらおん!」のページを閉じた。
9時
始業するとVBAマスターはメーラーやExcelファイルを一気に開いた。
そして「Altキー」と「Tabキー」に指を置き、先程のサイトをまた見始めた。
他の社員がVBAマスターの後ろを通りすがると、すでに画面は切り替わっていた。
全く無駄のないその動きにプロの仕事が光る。
Q. 仕事はしなくていいんですか?
「基本依頼ベースですからね。まぁ待つことも仕事っていうか…あ、来ましたね。」
一人の社員がVBAマスターの元へ訪ねてきた。
その険しい顔つきを見る限り、何か問題が起きたらしい。
VBAマスターはその人の机へ向かいパソコンをいじるとすぐに戻ってきた。
Q. 何かあったんですか?
「ローマ字入力できなくなっちゃったみたいです。これもそうですが、画面が逆さまになったっていう人も多いですね。彼らにとってローマ字入力に戻せるのは『神』らしいですけど(笑)」
笑いながらも自然と「Altキー」と「Tabキー」に指が置かれているのはさすがである。
15時
急に何かを思い立ったかのように立ち上がると携帯を持ちトイレへ駆け込んだ
「うちの会社、2chへの書き込み規制がかかってるんですよね。こういうのは早さが大事ですから。」
その行動力の早さにはただ驚かされるばかりである。
改めてプロフェッショナルの姿を見た。
18時
時計を確認するとVBAマスターは早々に退社した。
残業しないのも効率化の一つです。と、VBAマスターは語る。
Q. 今日はこれからどこかへ寄っていくのですか?
「いえ、このまま帰って豚丼食べて寝ます。」
Q. 何もしないんですか?
「起きててももったいないですからね。今日できることは明日やる。寝ることこそが一番生産性を上げられるんですよ。人生の効率化ですね(笑)」
笑いながらもその目に迷いはない。
無駄を省くという果て無き旅。
効率化という先ににゴールはない。
「う~ん、貫くことですかね。自分自身を。流されずに。私はそうやっていきたいと思っています。」
VBAマスターはここにいた。
終